山の谷間に大きな池があり、蓮が生えていて、花が沢山咲きました。次々と花が開き、池一面に咲いた蓮は、風が吹く度にゆらゆら揺れていました。でも花はいつまでも咲いていません。一片ひとひらずつ散り始めました。それなのに、たった一つの花だけは太陽に照らされて、いつまでも咲いていました。
 咲き続けている一輪の蓮を見付けた優しいお爺さんは、とても不思議に思いました。風が吹くと花がゆらゆら揺れている蓮に近づき覗いてみると、花の真ん中に可愛らしい女の子が座っていました。お爺さんは、抱きかかえて山の御殿に連れて帰りました。やがて女の子は、賢い綺麗な娘に成長しました。
 山の御殿で暮らしているお姫様の噂が街中に広がりました。大勢の若者がお姫様を一目でも見たくてやってきました。最後に都の王子様もやってきました。王子様はお爺さんに「お姫様に会わせて下さい」とお願いしました。お爺さんは「姫の名前を当てて下さい。当たったら会わせましょう」。
 お姫様の名前は誰も知りません。王子様は花のようなお姫様だから「はなこひめ」、蓮から生まれたので「はちすひめ」、賢いお姫様だから「ちえこひめ」。次々と名前を考えてみましたが、当たりません。
 王子様は会う事を諦めて馬に乗り都に帰ろうとしました。すると御殿の窓からお姫様が言いました。「もっと考えて下さいませ。我慢が大切です」。王子様は帰ることを止めて名前を挙げてみましたが、やはり当たりません。
 王子様は、疲れて痩せてきました。「いくら名前を挙げても当たらないから、やはり帰らせて頂きます。さようなら。何と不思議なお姫様なのでしょう」。するとお姫様は、「はい、当たりました。私の名前は、『ふしぎひめ』です」と答えました。王子様は大層喜んで、馬から飛び降りました。
 優しいお爺さんも一緒に喜んで、賢い綺麗なお姫様を王子様に会わせました。
王子様は、「ふしぎひめ」をお妃様に迎え、都に帰って行きました。

 このお話は、『ジャータカ物語』登場します。何事も素直に努力すれば、いつか望みを叶えることができる。途中で諦めることなく最後まで頑張ることを教えています。

合 掌



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