今月はお釈迦様の説話をお届けしています。お釈迦様の目指された佛教は難解なものではなく、一日一日を心豊かに生きる為、幸せをいただく為の方法をわかりやすく教えて下さっています。

 ある時、旅人が広野を歩いていました。すると突然荒れ狂った大象が現れ、追いかけ襲ってきました。周りにはどこも逃げたり隠れたりするところがありません。やっと古井戸を見つけ、隠れる事ができました。 そこには藤蔓が垂れ下がっていて、一目散に藤蔓を伝って逃げ込み、一安心しました。旅人は一息ついて、井戸の底を見てあっと驚きました。大きな口を開けた大蛇が、旅人が降りて来るのを待ち構えていました。 上には荒れ狂った大象がいるので登れません。下には大蛇がいるので降りられません。旅人の命は、一本の藤蔓のみです。ところが、その藤蔓の根元をどこから来たのか白鼠と黒鼠が入れ替わり根元をかじっています。 絶対絶命の旅人は、慌ててしきりに藤蔓を揺さぶってみましたが、藤蔓が揺れる度に、たまたま根元にあった蜂の巣からポトポトと甘い蜜が五滴も口の中にこぼれ落ちてきました。旅人は、その蜜の甘さに象も大蛇も鼠の事も忘れて、 甘い蜜の落ちてくるのを待ち望み、しばし恐怖を忘れていました。

 このお話は『佛説譬喩経ぶっせつひゆきょう』等に説かれています。
この旅人とは、人生という旅をしている私たちのことです。象は時間の流れで、人生のはかなさのことです。藤蔓は生命の事で寿命です。白鼠と黒鼠は、昼夜のことです。五滴の蜂蜜は食欲、睡眠欲、色欲、名誉欲、財産欲の欲望(五欲)です。 井戸の中の大蛇は、いつ訪れるかわからない死の影で、私たちを待ち構えています。命はいつかは尽きてしまうものです。
今最高の快楽に耽ったとしても、それは世俗の喜びで長続きしません。それゆえに私たちは不安を覚えます。
この喩えは、たまたまそこにあった目先の快楽である蜂蜜の甘さにまどわされている、人間の愚かさだということに気づいてください。

合 掌

※写真は、聖なるガンジス河



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