治まり掛けた様にみえた新型コロナウイルス感染症は、今だ猛威を振るって終息の気配を見せる様子もありません。平安な暮らしができる日を心待ちする今日です。
 近年では19世紀に世界各地でコレラが蔓延しました。日本で初めて流行したのは、江戸時代後期の文政5年(1822)更に安政5年(1858)でした。コレラの流行は、多くの人々を不安と混乱に陥れました。 感染すると激しい嘔吐、下痢が突然始まり、全身痙攣をきたし瞬く間に死に至る為「3日コロリ」と呼ばれ非常に恐れられました。当時は対策が全く無く流行が自然終息するのを待つのみでした。 コレラ対策は、日本の衛生行政の原点と言われていますが、当時の人々には戸惑いや混乱が生じていたのは当然の事でありましょう。その後の対策では、患者発生場所の消毒、交通の遮断、河川・井戸・下水・手洗・溝の清掃消毒等が実施されました。 また飲料水や食物に対する注意も指導されています。一方この時期はコレラ退散を願って神佛に祈りを捧げ各地で神事や法要が営まれたため、社寺の特別祭礼は禁止するも尊崇する社寺への参拝は勝手たるものと規定されました。
 また20世紀初頭には世界的にスペイン風邪が大流行しました。スペイン風邪は、大正7年(1918)から大正9年(1920)に掛け世界各国で極めて多くの死者を出したインフルエンザを原因とする流行病です。 3年間で5億人が感染し、その中には太平洋の孤島や北極圏の人々までもが含まれていました。 死者数は1700万人から5000万人と推計され、人類史上最悪の感染症の1つとされています。
 お釈迦様在世時代にも得体のしれないやまいが流行した様子が『増壹阿含経ぞういつあごんきょう 』第三十二に登場します。
 ベーシャーリ城で原因不明の病が大流行します。そして毎日多くの人々が亡くなります。そこでベーシャーリの住民がお釈迦様に助けを請います。お釈迦様が街に到着すると、たちどころに病気は沈静化し、街も住民も平静を取り戻します。 住民はお釈迦様が魔法をお使いになって、病魔を退散させたと勘違いするのですが、そうではありません。状況を冷静に観察し、正しい判断のもと慌てずに的確に指示されたことによって被害を拡大させるのではなく、終息に向かわしめただけの事でした。
 また『華厳経』 菩薩雲集説偈品ぼさつうんじゅうせつげぼんには、お釈迦様との出会いがあっても、疑いの目で見ている限り教えを聞いている事にはならないと説かれています。お釈迦様の智慧は深く、測り難きものであって、誠の教えを知らない者は、迷いが生じます。 智慧無き者は偽りの心で世間を見ていて、お釈迦様を見ようともいたしません。暗闇に宝が在っても、光が無ければ見る事が出来ないように、教えを説く人が居ても、疑いの心がある限り真実を知る事も出来ません。 正しい判断が出来なければ、色を見ることも叶わず、穢れたる心には、お釈迦様の教えも届きません。私達は善からぬものを優れたるものと思い、顛倒てんどうの念によって悪しきを善しと見て右往左往しているだけなのです。

 

合 掌